今回は、自分のまわりにありそうでリアルだから、ギュッと胸をつかまれる……そんなアラサー主人公の恋愛コミックをご紹介します。社会人として日々頑張っていて、充分大人なはずなのに、オフィスで泣いてしまう日があったり、幼少期の切ない思い出がよみがえったり。感情が揺れ動く瞬間をヒロインと一緒に味わって、胸キュンしたり、切なくなったりしてみませんか?


私たちが恋する理由(1)

ma2/祥伝社

王道オフィスラブに心ときめかせて

ポーカーフェイスでクールな上司・黒澤のさり気ない優しさに、ひそかに心惹かれている葵。そんな葵と黒澤に妙につっかかってくる新入社員の伊丹。他部署のマッチョな大島の見た目がとにかくタイプで、仕事中に妄想が止まらない京。黒澤の同期で恋愛迷子の絢香。オフィスを舞台に、リアルな恋模様があちこちで繰り広げられる!

読者目線としては、社内恋愛の裏側をのぞき見しているような感覚! 自分の身近にもこんなオフィスラブが転がっているのかも、とワクワクしたり、会社にこんなにイケメンばかりいるわけないし!という、身もふたもない現実を思い出したり……。
どちらにしても、高校生の学園ものと同じで、社会人になってからは、オフィスものが一番リアルだったりするわけです。仕事に悩んでいるときに、クールなイケメン上司が優しくサポートしてくれたら、それは好きになっちゃいますよね。


私のことを憶えていますか(1)~(3)

東村アキコ/文藝春秋

大人になって思い出した少女期の初恋

『東京タラレバ娘』でアラサー世代に、恋愛→結婚の厳しい現実を突きつけた東村アキコの新作は、30歳の誕生日に突然思い出した初恋の人を探す物語。ゴシップサイトの記者である遥は、顔がタイプという理由でライトなファンだった俳優SORAの熱愛を30歳の誕生日当日に知ってしまい、ショックを受ける。先輩から、「遥ちゃんはこの手の顔、好きだよね」と言われ、自分がなぜこのタイプの顔が好きなのか思い返してみると、小学生のときに好きだった年下の男の子「こうちゃん」を急に思い出したのだった。

初恋の思い出はいつまでも美しいままで、大人になって思い出しても甘酸っぱい気持ちになったり。でも遥の場合は、30歳になって急にその記憶がよみがえってきたから、甘酸っぱい気持ちに浸るというよりも、記憶が抜けていた20年近くの時間を必死で埋めたくなっている感じ。遥が住んでいた町から急に引っ越してしまったこうちゃん。フルネームも、引っ越し先も何もかも分からない彼の行方を調べ始めるのだけど、その遥をちょいちょいサポートする幼馴染の猫作もなかなかよい! 好きだからいじめちゃう猫作と遥の関係は、小学生のころからまったく変わらなくて、今も会えば遥に意地悪い言い方しかできない猫作(読者目線ではわかる猫作のツンデレな優しさに、思わずキュンとしてしまうはず)。そして、今をときめくイケメン俳優のSORAが、もしかしてこうちゃんなの?と、遥と同じくらい気になって気になって、早く続きが読みたくなる!


おとなになっても(1)~(4)

志村貴子/講談社

大人になって、同性と恋に落ちた

綾乃は小学校の先生。仕事帰りに久しぶりに立ち寄ったバーで、朱里という女性に声を掛けられ、初対面なのに急に距離が近づいてしまい、キスまでしてしまう。女性が好きな朱里と、女性と恋に落ちるのは初めての綾乃。しかも、綾乃は実は既婚者で、穏やかで落ち着いた関係性の夫がいて……。

大人で、同性で、既婚者で……と、綾乃と朱里の恋は一筋縄ではいかなくて、何も縛られていない若い子とは違って、勢いで簡単に進むことができない状況なんですよね。綾乃は学校の先生だし、自分の勤める学校の学区内では生徒や保護者の目も気になっていたり。朱里はかつて同性の恋人に、男性と二股をかけられてデキ婚されちゃった経験があり、実は既婚者だった綾乃との距離の取り方に悩み、傷ついている。綾乃の夫・渉も、綾乃から「気になる人がいる。女の人なの」とカミングアウトされ、とまどい、傷ついている。『おとなになっても』というタイトル通り、大人になってもみんな人間関係に不器用で、日々傷ついたりしながらも、どうしようもなく恋に落ちてしまったりする。そんな大人ならではの恋の切なさを感じられる作品です。



●千田あすか
編集・ライター。シンガポール在住経験からのシンガポール情報や、書評などのカルチャー情報をお届けします。インスタグラム @aska_chida



edit & text_ASUKA CHIDA
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