sweet誌面で映画や小説・漫画を毎号紹介している物書き・SYOさんが今月の推し映画を紹介する連載

【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】がスタート。

今月の推し映画は「ミステリと言う勿れ」。

田村由美による人気漫画「ミステリと言う勿れ」。

2022年には菅田将暉主演でテレビドラマ化され好評を博し、9月15日には待望の映画が公開される。天然パーマでおしゃべりなな大学生・久能整が、悲運にも巻き込まれてしまった事件を鋭い観察眼と淡々としているが止まらないマシンガントークで解決に導く――というのが基本構造で、推理ものとしての面白さはもちろん心理描写の細やかさ……特に、いまの日本の歪な社会構造を指摘するメッセージが多くの読者&視聴者に刺さっている印象だ。

…と、こう書くと何やら固いイメージを与えてしまうかもしれないが、我々が生きていくなかで感じる「おかしくない?」をきちんと描いてくれる“わかりみ”の深さが本作の大きな特長。

やたら上から来る年長者、偏見を押し付けてくる無遠慮な人々、「いつの時代?」な常識に縛られた社会の実情――。

「アップデート」といいながら、僕たちが生きている社会はまだその最中で穴だらけ。その中で日々感じるモヤモヤを受け流さずに指摘してくれる整は、いまの時代に必要な人物でもあるのだ。

自分の話でいうと、少し前にある医師に「娘さんは女の子なのに車が好きなんですね」と言われて愕然としたのだが(好きなものを好きでいさせてやれよ!)、そんなときに「ここに整くんがいてくれたら!」と強く感じた次第。

ということで多くの現代人を救ってきた「ミステリと言う勿れ」、映画版では原作の人気エピソード通称「広島編」が遂に実写化された。

簡単にいうと「遺産相続をめぐる一族のドロドロ争い」という実にミステリーっぽい話が展開するのだが、そこは王道展開=ベタに対するカウンターが特徴の『ミステリと言う勿れ』である。

遺産争いに巻き込まれた整くんが初っ端から「『犬神家の一族』みたい」とツッコんだり「全員一緒にいれば防げることもあるのに、なぜかバラバラになって、一人ずつ殺されるんですよ」などホラー映画の例を出し、観客を先回りして言ってくれるため「そうそう!」と頷きが止まらないし、それを踏まえたうえでどうサスペンスを展開させていくかにも期待が高まっていく。

実際、相続権の対象者である「蔵」にまつわる謎解き要素が用意されているし、一族の謎が絡み、恐ろしい陰謀が見え隠れし――と踏み込むほどに物語が拡大し、「こう来たか」と飽きさせない。

そして、出演陣。もはや説明不要の表現者・菅田に加えて「最愛」の松下洸平、「チェリまほ」の町田啓太、『すずめの戸締まり』の原菜乃華、「美しい彼」の萩原利久といったドラマ・映画で大活躍のスターが集結。

萩原はかつて菅田と共演して同じ所属事務所へ入ったというエピソードもあり、ファン的には嬉しい共演でもあるだろう。全員が衝突したり協力したりしながら謎解きをするチーム戦の側面も本作にはあり、芝居合戦という意味でも楽しめる。

また、先に述べた「社会の歪さ」に切り込み、優しくない社会に苦しむ人々を救わんとする名ゼリフの数々にも注目いただきたい。

例えば「子供って乾く前のセメントみたいなんですって。落としたものの形がそのまま跡になって残るんですよ」「“女の幸せ”とかにもだまされちゃダメです。それを言い出したのは多分おじさんだと思うから」等々、「よくぞ言ってくれた」と思えるものから価値観を真の意味でアップデートしてくれるものまで、他の作品ではなかなか見られない言葉が並ぶ。

観終えた後に生活に戻った際に財産となる「持ち帰り」がある本作、ぜひ楽しんでいただきたい。

「ミステリと言う勿れ」

story:天然パーマでおしゃべりな大学生・久能整菅田将暉)は、美術展のために広島を訪れていた。そこで、犬堂我路永山瑛太)の知り合いだという一人の女子高生・狩集汐路原菜乃華)と出会う。「バイトしませんか。お金と命がかかっている。マジです。」そう言って汐路は、とあるバイトを整に持ちかける。それは、狩集家の莫大な遺産相続を巡るものだった。当主の孫にあたる、汐路、狩集理紀之助町田啓太)、波々壁新音萩原利久)、赤峰ゆら(柴咲コウ)の4人の相続候補者たちと狩集家の顧問弁護士の孫・車坂朝晴松下洸平)は、遺言書に書かれた「それぞれの蔵においてあるべきものをあるべき所へ過不足なくせよ」というお題に従い、遺産を手にすべく、謎を解いていく。ただし先祖代々続く、この遺産相続はいわくつきで、その度に死人が出ている。汐路の父親も8年前に、他の候補者たちと自動車事故で死亡していたのだった…

次第に紐解かれていく遺産相続に隠された<真実>。
そしてそこには世代を超えて受け継がれる一族の<闇と秘密>があった――― 。

9月15日(金)全国東宝系にて公開

Ⓒ田村由美/小学館 Ⓒ2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社