『ザ・キラー』デヴィッド・フィンチャー監督×アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが再タッグ!【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】
sweet誌面で映画や小説・漫画を毎号紹介している物書き・SYOさんが今月の推し映画を紹介する連載【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】
vol.7で紹介する映画は、鬼才デヴィッド・フィンチャー監督×『セブン』の脚本家でもあるアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが再びタッグを組んだことで話題を呼んでいるNetfrix映画『ザ・キラー』。
映画好きにはそれぞれ、新作が出ると脊髄反射的に観てしまう、という監督が何人かいることだろう。自分にとって、デヴィッド・フィンチャー監督はその一人。『セブン』『ゲーム』『ファイト・クラブ』『パニック・ルーム』『ゾディアック』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『ソーシャル・ネットワーク』『ドラゴン・タトゥーの女』『ゴーン・ガール』等々――どの映画も暗く、カッコよく、容赦がない。定期的に摂取したくなり、彼の作品にしかない“美学”にあふれているのだ。
そのフィンチャー監督の新作映画『ザ・キラー』が11月10日よりNetflix配信された。僕は我慢できずに劇場での先行上映に駆け付けたのだが、「寡黙な殺し屋の復讐劇」という王道の物語を作家性出しまくりで描いており、「ありがとうフィンチャー……」と感激した次第(脚本家が『セブン』のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーというのもたまらない!)。ここからは作品の概要と共に、個人的な推しポイントや、配信で観賞する際のちょっとした注意事項を綴っていきたい。
パリでの仕事の際、アクシデントに見舞われて標的を始末し損ねた殺し屋、クリスチャン(マイケル・ファスベンダー)。その後、雇い主の差し金によって愛する者たちに危害を加えられた彼は、復讐を開始。各地を飛び回り、関係者たちを粛清していく。
ストーリー自体は非常にわかりやすいものだが、先に述べたフィンチャーの美学が細部にまで行き届いていて独自性は抜群。特に面白いのは、「殺し屋の日常」にフォーカスしているところだ。『ザ・キラー』はいくつかの章立て形式になっているが、全体を通して「とにかく待つ」さまが描かれる。殺し屋というと派手で華麗な姿を妄想してしまうが、その実態は好機が来るまでとにかく待つ……という何とも地味なもの。
第1章では、WeWorkの建設中?のオフィスにこもり、仕事に備えるクリスチャンの姿が映し出されるが、当のターゲットがなかなか来ない。待っている間、近くのカフェの客を眺めたり、ストレッチをしたりマクドナルドでサクッと栄養補給をしたり(食べ方が独特!)……といった時間がひたすら描かれていく。観ているこちらも「全然来ないじゃん!」とどんどん焦れていくのだが、そうしてクリスチャンの心理と同期していく感じが興味深い。「何も起こらない」無為な時間が描かれていくため、言葉を選ばずに言えば最初こそ退屈なのだが、その退屈こそが殺し屋の日常なのだ。そして、ここが流石フィンチャー監督なのだが――「クリスチャンが折り畳み式コップを取り出し、水道から水を飲み、痕跡が残らないようにふき取る」といった動作がいちいちカッコよく(マイケル・ファスベンダーがどハマりしている)、退屈であろうが全く問題なく観られてしまう。超絶カッコいい「殺し屋のモーニングルーティン」を観ているような感覚、といえばイメージが伝わるだろうか。
とはいえ、物語的な動きはないため「ずっとこんな感じなの?」とここで再生を止めてしまう視聴者も中にはいるかもしれない。案ずるなかれ、ターゲットが到着するや否や、物語は一気に動き出す。そこからの静かだが、淀みなく進んでいく展開の気持ちよさったら! 愛する者を傷つけた全員を葬るため、一人ずつ順番に追いつめていくクリスチャン。「飛行機のチケットを取る」「現地で車を確保し、移動する」「変装道具等の必要物資や武器を調達・廃棄する」といった計画準備→実行が細かく描かれていくのも最高で、足りないものをホームセンターやAmazonで買う(宅配ロッカーに届けてもらう)等々、妙にリアルな描写を端折ることなくいちいち見せてくれる(ターゲットの番犬を眠らせるための食材調達まで!)。バイオレンス描写も過度に入れ込んでおらず、必要なことを行っているだけ――というようなソリッドな演出が心地よい。
そして、クリスチャンの人間味。最初こそ無駄を省いた仕事人タイプに見えるのだが、頭の中では滅茶苦茶おしゃべりで「予測しろ。即興はよせ」「誰も信じるな」「決して優位に立たせるな」「感情移入はするな」を信条にしているくせに、どこか非情になりきれず、そのせいでちょいちょい窮地に陥るところが実に魅力的だ。
観たかったデヴィッド・フィンチャー作品を堪能できて、シリーズ化してほしい!と思うほど推せる主人公を創出した『ザ・キラー』。最後に観賞時の少々おせっかいな注意事項だが――本作は「画面が暗い」「音(音響/音楽)がいい」のが特長のため、部屋を真っ暗にしたり、ヘッドホンを装着したり良いスピーカーを用意したりと、ぜひ視聴環境にこだわってみてほしい。きっと快感が跳ね上がるはずだ。
『ザ・キラー』
story:壊滅的なミスを犯した冷酷な殺し屋は、世界中から狙われる身となり、雇用主、そして自分自身との戦いを繰り広げていく。全ては決して個人的なものではないという想いを胸に―。
Netflix映画『ザ・キラー』11月10日(金)より独占配信
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PROFILE
ものかき
SYO
1987年福井県生まれ。 東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆、トークイベント・映画情報番組への出演を行う。 2023年公開『ヴィレッジ』ほか藤井道人監督の作品に特別協力。『シン・仮面ライダー』ほか多数のオフィシャルライターを担当。装苑、CREA、sweet、WOWOW、Hulu等で連載中。
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