Ⅱ 52ヘルツのクジラたち(町田そのこ)

52ヘルツのクジラたち

クジラの声の周波数はどれも10~39ヘルツの間。しかし中には52ヘルツでしか声だけないクジラがいます。52ヘルツのクジラはほかのクジラの群れと声の周波数が合わず、仲間とコミュニケーションがとれない“孤独なクジラ”。そこから着想を得た物語です。ネグレクトされ、ヤングケアラーを経験するなど過酷な環境で生きてきた主人公が、ある男性との出会いをきっかけに、ゆっくりと心をほどいていくさまが丁寧に描かれています。

この作品のポイント

・社会的に孤立してしまった人々のリアルな心情が、痛々しいほど繊細に表現されている。

・“信じる”ことへの不安や恐れ、その一方で抱く憧れが、読む人の胸を締め付けながらも前向きにさせてくれる。

・クジラが象徴する“孤独”と“出会い”が、やさしい光を伴って希望へと繋がる展開が印象的。

一見、重たい題材に思えるかもしれませんが、町田そのこさんが紡ぐ言葉はどこか温かく、寒い季節にこそじっくり味わいたい“やさしさ”が詰まっています。読後には、どんなに小さくても人と人が支え合うことの尊さを再確認できるはず。夜の静かな時間帯に、ホットミルクでも飲みながらゆっくり読み進めれば、きっと心の深いところから癒やされることでしょう。