自分を好きになれない腐女子の由嘉里、心の奥に寂しさのあるホストのアサヒ。誰もが抱える共通点とは?

映画『ミーツ・ザ・ワールド』に出演する杉咲花さん

――杉咲さんは腐女子OL、板垣さんは既婚ながらNO.1ホストであるアサヒを演じました。実際に腐女子やホストの方へ取材もされたそうですが、それらが演技に活きたことはありましたか?

杉咲 実際にお会いして印象的だったのが、「BL漫画を買うときは必ず、鑑賞用、ディスプレイ用、保管用に3冊買う」という方のお話でした。本に対してのリスペクトがすごくあるからこそ「絶対シワをつけたくない!」とおっしゃっていて。本の開き方一つにしても、「こうやってやるんです」と教えてもらって、参考にさせてもらいました。

板垣 僕も職業としての“ホスト”や業界そのものについては未知だったので、実際にお店に行って、営業の仕方や日々のルーティンについてなど、話を伺いました。「お客さんに返事をするために休みの日でも携帯はずっと手放せない」ということを聞いて、アサヒの起床シーンでは真っ先に携帯を手にするなど、具体的に活かせることがたくさんありました。

――2人が演じられた由嘉里やアサヒをはじめ、作品中には何かしらの生きづらさを抱える人々が登場します。そうした人物を演じた感想をお聞かせください。

杉咲 今は少しずつ客観視できてきたと感じるんですが、演じているときは、すごく苦しかったんです。由嘉里と私は、過ごしてきた人生は異なるものですが、コンプレックスや自分をあまり好きになれない気持ちについては理解ができるところがあって。一方で、そういう部分って「他者にあまり気づかれないように」とか「見せてはいけない」といった気持ちになる側面もあると思うんです。演じていたときの苦しさは、そうした気持ちから来ていた部分もあるのかな、と今は思ったりもしています。

板垣 アサヒはホストとしていろんな顔を持っているからこそ、“本当の自分”を覆う層が分厚くて硬いんだろうな、と思いながら演じていました。セリフでも「不特定多数に愛されたい」と言っていましたが、その一番真ん中にあるのは“寂しさ”だろう、と。でもそれは、ホストという職業だからとか、歌舞伎町という場所で働いているからというわけではなくて、みんなが持っているものだと思うんです。ただ、由嘉里に対してはその“本当の自分”を覆う層は薄いんですよね。杉咲さんがつくる由嘉里を見て、アサヒは由嘉里がまぶしくて、うらやましさもあるんだろう、と感じていました。

映画『ミーツ・ザ・ワールド』に出演する板垣李光人さん

――No.1ホストのアサヒが腐女子の由嘉里にまぶしさを感じるのはどんな理由からだと感じましたか?

板垣 由嘉里は1つの好きなことに対して、時には危なっかしいくらいに突っ走ってしまう真っ直ぐさや、純粋なところがあるんです。死にたいという気持ちがあるライに生きていてほしいと願う由嘉里が「ライを死なせないプロジェクト」について力説している姿をはじめ、アサヒにとってはその真っ直ぐさや眼差しから、強さを感じたことが大きかったと思います。

――お互いについて感じる俳優としての魅力をお聞かせください。

杉咲 初めてお会いした本読みの日から、すごいボルテージで屈託なくアサヒを演じる姿に圧倒されていました。原作から「アサヒが飛び出してきた!」って。板垣くんご本人は飄々としていて、撮影の合間に静かにお菓子を食べているようなギャップも面白くて。多くの会話を交わせたわけではありませんでしたが、だけど隣にいて不思議な心地よさがある感覚があって、「由嘉里もこんなふうに感じているのかな」なんて思っていました。

――板垣さん自身とアサヒが通じて見える感覚があったんですね。

杉咲 セリフに対しても、ご自身の思考を通したアイデアを提案されている姿や、その視点の優しさに素敵だなぁと感じて。演じる役に対して、責任を持っていらっしゃることが伝わってきて、そんなところも尊敬しています。

板垣 こちらこそ、杉咲さんにはリスペクトしかないです。現場で監督とお話しされていたり、悩まれている姿だったりを見ていて、すごく愛情深い方なんだなと思いました。作品自体に対してもそうですし、由嘉里という役に対してもそうです。本当に愛であふれている方なんだなと感じました。