苦しい中で生き続ける先に待つ“出会い”

――歌舞伎町で酔いつぶれていた由嘉里を助け、そのままルームシェアすることになった鹿野ライは、消えたいという気持ち(希死念慮)を抱えています。そんなライに、由嘉里もアサヒも惹かれていくのはなぜなのでしょうか?
杉咲 由嘉里が初めてライと出会ったとき、「きれいな人」「あなたみたいな顔になりたかった」と言うんです。それはきっと、同じ人間だとは思えないほどまぶしく感じる何かがあったのではないかと思うし、ある種のバイアスをかけていた瞬間だとも思うんです。ですがその後、ライの家で彼女の生活に触れ、荒れ果てた部屋を目の当たりにしたときに、一気にライという人間に親近感が湧いて、精神的にも接近していったのではないかなって。そこでライの望む「死」に触れたときに、「この人を止めなければいけない」という使命のようなものにかられていく。なにか、由嘉里を突き動かすものがあったのだと思います。
板垣 アサヒから見たライってすごく身軽だと思うんです。既婚者でありながらNo,1ホストであるアサヒの視点は、奥さんだけでなく他のお客さんの相手もしなくてはならず、いろんなものを抱えていて荷物が多くなっていると感じている状況です。一方でライは、キャバ嬢という同じような業種でありながら執着がないように見える。そんなところに、ある種カッコよさも感じているのではないかと思います。
――杉咲さんはライを演じることになる南琴奈さんとオーディションで目が合ったとき、セリフが飛んでしまったそうですね。
杉咲 琴奈ちゃんの佇まいを見た瞬間から、なにかただものではない異質さを感じていました。お芝居していても、彼女の艶やかでありながら影を感じる表情や、所作が脚本に書いてあることから自然と逸脱していくさまに、気づいたら翻弄されている自分がいました。琴奈ちゃんが持つリズムに、心地よく巻き込まれていく感覚があったんです。
――板垣さんは南琴奈さんにどんな印象を持ちましたか?
板垣 「彼女しか、ライを演じることはできないな」と思いました。撮影以来お会いする機会がなく、「南さんって本当に存在したんだろうか……?」と思わされるくらい、ライの哲学とご自身とを共鳴させていると感じました。難しい役柄で、一歩間違えると“しっとり”としてしまうと思うんですが、本当にさらっとした質感でライを演じられていました。

――希死念慮を持つ人のそばにいる人の葛藤も描かれていると思いますが、ご自身の中で人への寄り添い方について答えはありますか?
杉咲 答えは出せないですよね。でもこの作品を通じて、「寄り添い方って、こんなにも多様なんだな」と思いました。3年前に脚本を初めて読んだときは、由嘉里の死生観に共振する部分があったのですが、そこから自分にとっても、さまざまな出会いや価値観の変化が訪れるなかで、実際に撮影が始まってみると、「自分だったら由嘉里のように行動できるのだろうか」と苦しくなる瞬間もあったんです。でも、この映画を観てくれた知人が「誰かが死に引き寄せられていく時に、そこにどんな事情があっても、この世界にいてほしいと願う人が、はなちゃんがこの映画で体現したすべて」という感想をくれたんです。それがすごく嬉しかったですね。
板垣 人の痛みへの処方箋は1人1人違うし、用法も違うと思うんです。相手が何を求めているかによっても違ってきます。「寄り添うこと」が正解の人もいれば、「1人で向き合い続けることが正解」という人もいますよね。そこは本当に一人一人違うんだ、と改めて思いました。
――劇場に足を運んでくださる方に、一言メッセージをお願いします。
杉咲 まさに本作のタイトルにあるように、由嘉里はライという人との新しい出会いから、アサヒをはじめさまざまな人や歌舞伎町という街、新しい世界に出会っていきます。苦しい日々のなかでも、生きるということを続けていると、こんなふうに想像もつかないような出会いが待っているんだと感じさせられる。そんなエールのようなものを受け取ってもらえる作品になっていたら嬉しいです。
板垣 いまはSNS全盛期で、実際の本名も顔も知らないような人と比べてしまう、不思議な時代だなと思っています。そこに翻弄されてしまうことは現代に生きている限り仕方ないことかもしれません。そういう苦しさや悩みに対して「どうしたらいいか」という答えはないけれども、物語の結末として強い否定も肯定もないかもしれませんが、この作品の中で描かれるということが、誰かにとっての寄り添うということになったらいいなと思います。
(了)
Profile/杉咲 花(すぎさき・はな)
1997年10月2日生まれ、東京都出身。2016年に出演した『湯を沸かすほどの熱い愛』での演技が高く評価され、第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞、第41回報知映画賞助演女優賞、第59回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。その後、2023年公開の主演映画『市子』では第47回日本アカデミー賞優秀主演女優賞と第78回毎日映画コンクール〈俳優部門〉女優主演賞を受賞。主な出演作にNHK連続テレビ小説「おちょやん」(20-21)、テレビドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(24)、映画『52ヘルツのクジラたち』(24)、『朽ちないサクラ』(24)、『片思い世界』(25)など。
Profile/板垣李光人(いたがき・りひと)
2002年1月28日生まれ。2012年に俳優デビュー。2024年に公開の映画『八犬伝』、『はたらく細胞』、『陰陽師0』で第48回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。今年は、ゴールデン帯連続ドラマで初主演を務めたカンテレ・フジテレビ系ドラマ「秘密~THE TOP SECRET~」、映画「ババンババンバンバンパイア」、ドラマ「しあわせな結婚」、NHK連続テレビ小説「ばけばけ」など話題作への出演が続いている。さらに、映画「ペリリュー-楽園のゲルニカ-」が12月5日公開予定。俳優業の傍ら、アートの分野でも個展を開催したり、初めての絵本「ボクのいろ」を11月6日に発売予定など多方面で活躍。
●映画『ミーツ・ザ・ワールド』

公開日:2025年10月24日(金)
配給:クロックワークス
出演:杉咲花 南琴奈 板垣李光人
くるま(令和ロマン) 加藤千尋 和田光沙 安藤裕子 中山祐一朗 佐藤寛太
渋川清彦 筒井真理子 / 蒼井優
(劇中アニメ「ミート・イズ・マイン」) 村瀬歩 坂田将吾 阿座上洋平 田丸篤志
監督:松居大悟
原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社文庫 刊)
脚本:國吉咲貴 松居大悟 音楽:クリープハイプ
主題歌:クリープハイプ「だからなんだって話」(ユニバーサルシグマ)
公式HP:mtwmovie.com
公式X/Instagram/TikTok:@mtwmovie
2025年/日本/カラー/アカデミー(1.37:1)/5.1ch/126分/G
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会
AUTHOR'S PROFILE
SHIHO ISHINO
石野志帆
TV局ディレクターや心理カウンセラーを経て、心を動かす発見を伝えるライター。趣味はリアリティーショー鑑賞や食べ歩き。海外在住経験から、はじめて食べる異国料理を口にすることが喜び。ソロ活好きが高じて、居合わせた人たちの雑談から社会のトレンドをキャッチしている。



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