日本では、高齢化に伴う労働人口の低下から20~30歳代の女性の社会的な需要が高まって、晩婚化が進むにつれて少子化が深刻化しています。
そのため性成熟期である年齢で妊娠、出産の準備をすることができないなどの問題によって、ますます少子高齢化が進むのではと懸念する声も。
そこで今話題となっている「卵子凍結」が有効な手立てとなる可能性があることをご存じですか? 言葉からなんとなくイメージがつくものの、詳細をわかっているという人は少ないのではないでしょうか。
この記事では、卵子凍結について詳しく解説し、デメリットや平均的な費用、手順についてもご紹介していきます。
卵子凍結に興味があるという人、卵子凍結を検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。
INDEX
卵子凍結とは?
悪性腫瘍の患者さんに対して、抗がん剤や放射線治療を開始する前に行われることもある卵子凍結とは、どのようなものなのでしょうか?
まずは、卵子凍結について詳しく解説していきます。
なぜ卵子凍結が行われるのか
女性の卵子は、生まれたときに一生分がすでに卵巣内に存在しています。男性の精子のように、その都度新しく体内で作られるわけではないため、年齢を重ねるごとに卵子も老化していきます。
老化した卵子は受精しにくくなったり、胚になりにくかったりして高齢になるほど妊娠しづらくなるといわれています。
妊娠適齢期は20~30歳くらいとされますが、冒頭でお伝えしたように女性の社会進出が進んでいることから、妊娠適齢期を過ぎたころに結婚や妊娠を迎える人が多くなっているのです。
そんななか、卵子が老化する前に冷凍保存する「卵子凍結」が注目されるようになりました。
パートナーがいない、仕事との兼ね合いなど、個々の理由によって卵子凍結を行うことを「社会的卵子凍結」といい、以前は子供を産むか仕事を続けるかと悩まなければいけなかったような場面でも、卵子凍結という選択肢が増えたのです。
卵子凍結した際の妊娠率
卵子を凍結したあと、保存している卵子によって妊娠、出産するためには体外受精によって卵子と精子を受精させる必要があります。
そのタイミングで卵子を融解するのですが、凍結された卵子を融解する過程で卵子が破損してしまう可能性があり、融解したあとの卵子の生存率は40~70%とされています。
卵子の凍結方法で、後述する近年新しく開発された「超急速ガラス化保存法」は、融解後の生存率が高くなっているといわれていますが、それでも残念ながら妊娠率はそれほど高くないのが現状です。
卵子を解凍して体外受精をしたあとに子宮に戻したときの妊娠率は以下のようになっています。
- 30歳以下の採卵…35%前後
- 31~34歳の採卵…30%前後
- 35~37歳の採卵…25%前後
- 38~39歳の採卵…20%前後
- 40歳以上の採卵…15%以下
妊娠率は採卵をした歳が上がっていくごとに下がるため、なるべく早い段階で卵子凍結を行うことが望ましいとされます。
さらに、妊娠後にも流産の可能性があることを考えると、妊娠したあとの出産率はもっと低くなってしまいます。
卵子凍結に年齢制限はある?
卵子凍結に明確な年齢制限はありませんが、有効性から考えると20~34歳までの卵子を冷凍保存することは、将来の妊娠に向けて有効だといえます。
とくに40歳以上で卵子凍結を希望する場合には、クリニックによって卵子凍結の年齢制限を39歳までと定めているケースもあり、コストと期待できる結果のバランスを見て判断する必要があります。
前述したように、体外受精での妊娠率は、35歳くらいから25%以下に低下していくため、有効性の高い年齢のときに、妊娠を希望するものの相手が見つかっていないという状況なのであれば、将来のことを考えて卵子凍結という手段を選ぶのもよいでしょう。
卵子の保存期間
日本産婦人科協会は、凍結した卵子は45歳までに使いきることが望ましいとしていますが、統一されている基準があるわけではありません。
しかし、保存した卵子を破棄する時期は「生殖年齢を超えた場合」としていて、一般的に閉経の平均年齢である50歳を目安としているクリニックが多いです。
卵子凍結の費用は採卵できた卵子の数によってもかわってきますが、保存するとなると更新料としてさらに費用がかかるケースもあります。
また、卵子を戻す年齢として年齢が高齢になってくるほど高齢出産のリスクもかかわってきます。卵子が若い状態でも、高齢での妊娠には糖尿病や高血圧症などの合併症が起こる可能性があります。
卵子凍結のデメリット
卵子凍結には以下のようなデメリットがあります。
- 凍結することで卵子の質が下がる
- 将来の妊娠を保証できるわけではない
卵子は凍結すると質が下がるとされています。凍結していない卵子と比べると、凍結している卵子のほうが妊娠しづらいとされていますが、そういった理由から卵子の数自体を多く凍結保存するという人もいます。
また、データをもとに将来妊娠できる確率などをシミュレーションして卵子凍結を行いますが、予想以上に個体差があったり、将来のパートナーが男性不妊であったりする可能性がゼロではありません。そのため、卵子凍結をしたからといって将来必ず妊娠できるというわけではないのがデメリットといえます。
卵子凍結の平均的な費用
1回の卵子凍結にかかる費用は以下を参考にしてみてください。
- 検査、排卵誘発…3~10万円ほど
- 採卵…10~30万円ほど
- 凍結、保管…20~50万円ほど
しかし、この費用は1回の採卵で冷凍する卵子の個数や麻酔代、排卵誘発剤の種類などによって変動します。
また、凍結する卵子の数が多ければその分だけ費用がかかることも覚えておきましょう。
前述したように、1年ごとに保存するための更新料も別途必要となります。
そして、凍結した卵子を体外受精で子宮に戻す際も費用がかかるため、総額でどの程度になるのかを事前に把握したうえで、予算やライフプランに合わせて医師と相談するようにしましょう。
卵子凍結の手順
卵子凍結をするためには、卵巣刺激、排卵、凍結保存という流れで、将来の妊娠に備えて卵子を保存管理する必要があります。
ここからは、卵子凍結の手順を詳しくご紹介します。
卵巣刺激
より多くの卵子を得るために、卵巣刺激を行います。卵巣刺激には方法がいくつかあり、大きくは刺激周期と低刺激の二つに分けられます。
刺激周期はアンダゴニスト法やロング法、ショート法といった方法によって、毎日注射を打つことで複数の卵子を得る方法。
それに対して低刺激は、内服の排卵誘発剤を併用しながら注射の数を減らして行う方法で、刺激周期に比べて1回の採卵で得られる卵子の数は少ない可能性があります。
採卵
腟から超音波機器を挿入して、超音波画像を見ながら卵巣の中に採卵針を刺し、卵胞液とともに卵子を吸引、採取します。
採卵は針を刺して行うので痛みが気になる人も多いですが、多少の痛みはあるものの、麻酔が必要なほどではないといいます。
どうしても痛みが不安だという人は、医師に相談することで麻酔をしてもらうことも可能なので、事前によく話し合いをしておきましょう。
凍結保存
卵子は液体窒素に入れることで凍結保存が可能となります。凍結方法は2種類あり、以下のような違いがあります。
- 緩慢凍結法…細胞の外に水晶を形成させて脱水、濃縮して毎分0.3℃ずつ、-30℃まで緩慢に冷却していく
- 超急速ガラス化保存法…ガラス液に投入して約1分で細胞を脱水、濃縮して瞬時に凍結する
病院によって扱っている凍結方法が違うことがあるため、事前にどのような方法で凍結しているかを確認しておくようにしましょう。
卵子凍結に補助金や助成金が出る?
卵子凍結にかかる費用は25~50万円ほどとお伝えしましたが、不妊治療助成制度の対象となるケースがあります。
しかし、仕事やパートナーとのさまざまな事情で今は妊娠できなくても、将来は妊娠、出産を考えているから卵子凍結をしたいという人は、不妊治療には含まれない場合もあります。
補助金や助成金については、お住まいの都道府県と市区町村の両方に「卵子を凍結して将来顕微授精を行う」ということを伝え、問い合わせてみてください。
卵子凍結ができるクリニックの探し方
卵子凍結はまだまだ行っているクリニックが少ないため、どう探したらいいか? と迷っている人も多いですよね。
卵子凍結をしたいと思ったら、まずは最寄りのクリニックやかかりつけのクリニックに相談してみましょう。そうすると、紹介状を書いてもらえるケースがあります。
または、日本産婦人科学会のホームページから探してみるのもよいでしょう。
卵子凍結は、卵子凍結したあとに子宮へ受精卵を戻す必要があります。そのため、1度限りのことと考えずに、通いやすいクリニックを選びましょう。
クリニックによっては、未受精卵の移動は受け入れていないというケースもありますので、引っ越しなどの予定がある方は事前に確認しておくようにしましょう。
将来の妊娠のための卵子凍結!
卵子は年齢を重ねるごとに老化していってしまいます。その老化を止めることはできませんが、卵子を凍結することで、若いときの卵子で妊娠、出産が叶う可能性があります。
計画的に妊娠を考えられることや、パートナーがいないことに焦ることなく過ごせるのがメリットとして挙げられますが、凍結したからといって必ず妊娠できるというわけではないことや、費用が高いということがデメリットとして挙げられます。
保管費用や卵子を融解するときに発生する費用など、卵子凍結にかかわる費用を把握しておき、コスト面と年齢を考えつつ慎重に検討するようにしましょう!
数年前と比べると、卵子凍結を行えるクリニックは増えていて、メディアなどでも話題となっている卵子凍結は、妊娠と仕事を両立させたい女性にとっての選択肢の一つとなります。
卵子凍結を検討している人や妊娠と仕事の両立に悩んでいる人は、ぜひ参考にしてみてください。