Im Westen nichts Neues
NETFLIX『西部戦線異状なし』

わずか数百メートルの陣地をめぐり300万人もの兵士が亡くなった第一次世界大戦の西部戦線。壮絶なその塹壕戦を小説にしたドイツの世界的文学を新たにリメイクしたNetflix配給のドイツ映画が、アカデミー賞作品賞ほか9部門にノミネートして話題となっている。

戦争映画だが、輝かしい戦績や英雄は全く登場しない。愛する人との感動的な再会も、亡くなった仲間の思いを届ける叙情的な展開も一切なし。

冒頭、軍服のリサイクルをする裁縫工場のシーンが映り、使い捨てられる兵士達の運命が不気味に示される。志願兵となり、自国のために闘うことにワクワクしていた主人公パウルは、従軍初日から想像以上の絶望と恐怖を容赦なく味わう。

徹底的に暴力にさらされ肉体的にも精神的にもズタズタにされる彼の姿に、観る者は、実際に戦争を肌で感じる感覚を覚え、没入していく。そして、ひたすら死の現実を描く凄まじい地獄絵図に、戦争の怖さと人間の不条理を痛烈に思い知らされる。

熾烈を極める泥臭い前線の戦場シーンとは対照的に、暖かく安全な場所で豪華な食事にありつく上層部の軍曹や、豪華列車の中で行われる将軍たちの休戦交渉も描かれる。時折挟まれる息を呑むほど美しい大自然の景色はどこか哀しい。

俳優達の鬼気迫る演技、映像のリアルな臨場感、巧妙に挿入される緊張感ある音楽など、映画としてのクオリティは圧倒的に高い。

圧巻の映画体験で戦争の無益さや愚かさを痛感しながらも、100年後の現在も同じ悪夢が繰り返されていることを意識せずにはいられない。これは、今だからこそ観るべき反戦映画なのかもしれない。

『西部戦線異状なし』

story:第一次世界大戦下のヨーロッパ。17歳のドイツ兵パウル(F・力メラー)は、祖国のために戦おうと意気揚々と西部戦線へ赴くが、その高揚感と使命感は凄惨な現実を前に打ち砕かれる。仲間たちと最前線で命をかけて戦ううち、彼は次第に絶望と恐怖に飲み込まれていく。
監督:エドワード・ベルガー/出演:フェリックス・カメラー、アルブレヒト・シュッヘ、アーロン・ヒルマー、ダニエル・ブリュール ほか/現在、Netflixにて独占配信中

© Netflix © ReinerBajo

NETFLIX 『JUNG_E/ジョンイ』


story:荒廃した近未来の宇宙を舞台に、戦闘用アンドロイドの母親と娘の切ないドラマと共に描かれる美しきSFアクション。『新感染/ファイナル・エクスプレス』『地獄が呼んでいる』のヨン・サンホ監督作らしい、倫理観をゆさぶる韓国発ディストピア作品。
監督:ヨン・サンホ/出演:カン・スヨン、キム・ヒョンジュ、リュ・ギョンス ほか/現在、Netflixにて独占配信中

© Netflix

NETFLIX 『ユー・ピープル 〜僕らはこんなに違うけど〜』


story:ユダヤ系×ブラックムスリムという違うルーツを持つミレニアル世代2人が、恋に落ち結婚を願う中で起きる世代間ギャップ大騒動。人種や宗教ネタが満載ながら、空気感はとことんポップ。怖いパパ役のE・マーフィがいい味!
監督:ケニア・バリス/出演:ジョナ・ヒル、ローレン・ロンドン、エディ・マーフィ ほか/現在、Netflixにて独占配信中

© Netflix
text_Masamichi Yoshihiro,HAZUKI TOGO
web edit_KAREN MIYAZAKI[SWEETWEB]
※記事の内容はsweet2023年4月号のものになります
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