Cate Blanchett
ケイト・ブランシェット
Cate Blanchett 1969年5月14日、オーストラリア生まれ。1998年の『エリザベス』でオスカー候補になってから、アカデミー賞の常連に。本作では2度目となるヴェネチア国際映画祭女優賞を受賞している。
ケイト様すごい。このひと言に尽きます。今年のオスカーでは無冠だったけどケイト・ブランシェットの主演作『TAR/ター』は、特別賞あげてもいいんじゃないの? ってくらい、ケイト様の圧倒的ひとり芝居。
いや、他にも登場人物はたくさん出てくるんだけど、彼女の神経質で暴力的な芝居が際立つように練られた脚本が強烈で、彼女が演じるリディア・ターが「ほんとにいるんじゃね?」ってくらいの説得力。
「監督とは10年前に出会って、それから色々と一緒に仕事をする企画があがったんだけど、なかなか実現しなかった。
なにせ、監督が作り出す作品は、とても秀逸なモノばかりだけど、ジャンルを定義するようなものではない難しいものだから。
そんななかで送ってくれたのがこの作品の脚本。すぐに読んだんだけど、こんな脚本初めて、と思ったわ。
私がとても興奮したのは、まずトッドと一緒に仕事をするということ、そしてメディアが作り出す勝手なイメージに振り回される現代人の考え方を議論する機会になることでした。
これを構築する作業は最高に楽しかったです」
リディアは世界が注目する大物音楽家として、最大の仕事に取り組むことに。ところが、そんなときに彼女の心をかき乱す事件が発生。
そこからのメンタルの崩壊は……。観てもらわないと分からないスリル満点。
「彼女はマーラーの交響曲全編をひとつのオーケストラで録音するという生涯の野望も遂げようとしているわけですが、これはどの指揮者も未だかつて成し遂げたことのないことでした。
つまり、彼女は頂点を極めようとしているのです。その時点で、アーティストであり続ける唯一の方法は落ちることだと悟るのでしょう。
次の頂点に行くためには、駆け下りるしかない。だから、自分が次にやるべきことへの恐怖 、不安があり、結局それが、 愛するものを破壊してしまったのかもしれないと思うのです。
ですから私は、彼女は本当に自らを破滅に追いやったのだろうか、とずっと考えていました。彼女は一見破壊的なことをやっているように見えるから。
恋愛関係や我が子だけでなく、権威や権力といった自分の地位も。
権力……この場合は文化的な権力を持つ立場まで昇り詰めると、そこはあまりに魅惑的で人の心を引きつける場所だから、何もかもを捨ててそこにしがみつくか、それとも守りに入るか、と考えるんじゃないかってね。
でも、それはアーティストに限らず、政治や産業の世界でも同じこと。権威の是非についてを語っているんだと思いますよ」
『TAR /ター』
story:ベルリン・フィルで女性として初めての首席指揮者となったリディア・ター(C・ブランシェット)。時代の寵児となった彼女は、彼女のキャリアを決定づけるだろう交響曲の収録に苦悩していた。そんなとき、彼女がかつて指導した若き女性指揮者が自殺したという報せが……。
製作・監督・脚本:トッド・フィールド/出演:ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、ソフィー・カウアー、ノエミ・メルラン ほか/配給:ギャガ/公開:5月12日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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■ライター プロフィール
よしひろまさみち
『スウィート』のカルチャーページでもおなじみの映画ライター・編集者。日本テレビ系『スッキリ』ではレギュラーで映画紹介を務める。