sweet誌面で映画や小説・漫画を毎号紹介している物書き・SYOさんが今月の推し映画を紹介する連載【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】

 

2016年に日本テレビ系列で放送され大きな話題なった、『ゆとりですがなにか』が岡田将生×松坂桃李×柳楽優弥の日本を代表する豪華トリオが劇場版となってカムバック!ということでvol.4の今回紹介する推し映画は、『ゆとりですがなにか インターナショナル』をお届けします。

個人的に映画化を聞いて心躍り、楽しみにしていた『ゆとりですがなにか インターナショナル』が10月13日劇場公開。2016年にテレビドラマ・2017年にスペシャルドラマとスピンオフドラマが放送/配信された人気作のまさかの劇場版だ。

岡田将生・松坂桃李・柳楽優弥ほか豪華キャストが出演し、脚本を宮藤官九郎が務めた『ゆとりですがなにか』は、「ゆとり第一世代」(1987年生まれ辺り)が世の中にもまれていく姿を描いた社会派コメディ。

実は僕は1987年とドンズバ世代で、放送時には共感しまくり・刺さりまくりだったわけだが……今回の劇場版には、大いに驚かされた。「社会派」のレベル――いわばシリアス感がさらに強まっていたからだ。

酒屋を継いだ正和(岡田将生)、小学校教師の山路(松坂桃李)、中国から出戻ったまりぶ(柳楽優弥)の3人に待ち受けるのは、「働き方改革」「コンプライアンス」「多様性」「グローバル化」といった“いま”の事象たち。正和の主要取引先だった古巣の食品会社は韓国の企業に買収され、山路のクラスには海外の生徒が転校してきたりLGBTQの授業が導入されたり、まりぶは配信活動にいそしみ……。コロナ禍前後で激変した世の中のルールやニューノーマルが余すことなく盛り込まれ、Z世代との衝突やパワハラ・セクハラ問題(性加害と#MeToo)、セックスレスや育児についても斬り込んでいく。

もちろん基本はエネルギッシュなコメディで、商談に赴いたら自分以外みんなオンラインで参加していた、というような“テレワークあるある”、デートにレンタルおじさんをリモートで同伴させるといった暴走エピソードにはゲラゲラ笑わされてしまう。

セリフの一つひとつも相変わらずキレッキレで、YouTubeの視聴者に対して「どうせ惰性で生きてる奴らが惰性で観てる」と野次ったり、「Z世代のZは絶望の頭文字」「土下座っていまの時代も効果的なんですね」「いいねって実は“どうでもいいね”でしょ」「“(夫が言う)ご飯はなんでもいい”ならドッグフードが一番楽なんですが」といったニュアンスのグサッと刺さる名言のオンパレード。

中身のないギャグが続くと飽和してしまい「好きな人だけが楽しめる」感が強くなってしまうが、本作においては自分が普段思っていること・感じているが言語化できていなかったこと・無意識下で抱いていた生きづらさを具現化してくれるため、“わかりみ”が半端ではない。

余談だが、先日僕が幼稚園時代からの幼なじみたちと飲んだ際、話に出た「育児のリアル」「現状/将来の不安」「国力の低下とアジア諸国の勢い」がそのまま投影されているような感覚になった。それくらい、本作で描かれている“社会のいま”は解像度が高い。市民をきちんと描いているというか、実感のこもり方がまるで違うのだ。

しかもそういったシニカルなギャグの中に、「下世代と付き合ってみたら一人ひとりは良い奴」「名づけられない関係の良さ」「言葉に出して確認する大切さ」「海外との勝ち負けって本当に必要?」といったような、ハッとさせられる“本音”がしっかり顔を出すのが上手い。

どう考えたって破綻しているいまの日本で、どう生きていくのか。そのつらさをわかってくれて、笑い→感動で満たしてくれるゆとりですがなにか インターナショナル』、猛烈にオススメです。観た人同士で語りたい!

 

 『ゆとりですがなにか インターナショナル』

© 2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

story:〈野心がない〉〈競争意識がない〉〈協調性がない〉【ゆとり世代】かつて勝手にそう名付けられた彼らも30代半ばを迎え、それぞれ人生の岐路に立たされていた…。夫婦仲はイマイチ、家業の酒屋も契約打ち切り寸前の坂間正和(岡田将生)いまだに女性経験ゼロの小学校教師・山路一豊(松坂桃李)事業に失敗し、中国から帰ってきたフリーター・道上まりぶ(柳楽優弥)家族、仕事、仲間、ライバル、不倫疑惑、マッチングアプリ、エビチリ、二日酔い…彼らの前に立ちはだかる“人生の試練”…!そして、《Z世代》《働き方改革》《コンプライアンス》《多様性》《グローバル化》…想像を超える新時代の波も押し寄せ、物語は予想外の展開へ…!!