映画『きっと、それは愛じゃない』のヒロインに全女子が共感せずにはいられない!
sweet誌面で映画や小説・漫画を毎号紹介している物書き・SYOさんが今月の推し映画を紹介する連載【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】
vol.9で紹介する映画は、2023年12月15日(金)より公開する『きっと、それは愛じゃない』。『アバウト・タイム』『ブリジット・ジョーンズの日記』の製作陣がすべての悩める現代人に贈る、新たな愛と人生のガイドブックムービーとも言える。全女子が共感せずにはいられない!等身大のヒロインをチェックして。
「多様性」という言葉がメジャーになってきた昨今(概念の浸透にはまだまだ時間がかかりそうだが……)。個人的にだが、映画のジャンルにおいてロマコメやラブコメは岐路に立っているように感じている。「誰かを好きになること/恋愛感情を抱くこと」を当たり前のこととして押し付けるのも違うし、誰かを傷つける可能性を常にはらんでいる「笑い」をどう捉えるかも、作り手の手腕や態度が問われているところ。
「恋愛」も「笑い」も日常に結びついているために、ターゲットに入る/入らないが明確に生まれてしまう。そうした時代のなか、様々な工夫を感じたのが映画『きっと、愛じゃない』(12月15日公開)。『アバウト・タイム』『ブリジット・ジョーンズの日記』の製作陣×『シンデレラ』リリー・ジェームズ主演と来たらがっつり王道(ある種伝統的な)のラブコメになるのかと思いきや、むしろその逆。「お見合い結婚」という“慣習”を題材に、結婚の幸福も難しさも或いは結婚しない選択肢も、全てを「これが正解」と提示しないように描写しようとしている感を受けた。
これまでの恋愛がうまくいかず、自身の結婚についてもどこか懐疑的なドキュメンタリー監督のゾーイ(リリー・ジェームズ)は、幼馴染で医師のカズ(シャザド・ラティフ)が見合い結婚をすると聞き、次回作の題材として取材することに。その過程で、結婚にまつわる様々な事情や想いに触れていく。
本作の特長は、「親が決めた相手と結婚なんて時代錯誤じゃない? 個人の意思を無視してない?」というところから出発し、「決めつける」ことの危うさを気づかせてゆく。最初こそ「結婚相談所に親が提示する“相手に求めるポイント”が多すぎる」「顔合わせに割り込んだり、デートにまで付いてきたりと介入しすぎ」といった内容がコメディタッチで描かれていくが、パキスタン生まれのシェカール・カプール監督(『エリザベス』『ニューヨーク、アイラブユー』ほか)による“宗教上の理由”や“家のしきたり”といった部分が肉付けされていて、観客の見方を制限しない(人種や属性に対するジョークやそれをとがめるセリフも多く、価値観のアップデートがなされている“いま”を強く感じさせる)。
カズの両親は見合い結婚だったがお互いに想い合って幸せに暮らしているし、ゾーイの両親は恋愛結婚だったが父が不倫して家を出てゆき、理想的な家族像だと感じていた友人の夫の不貞も発覚。ゾーイ自身も自由恋愛を謳歌しているつもりだが失敗続きで、成功体験がない以上「見合い結婚はダメで、恋愛結婚は良い」とは断言できない。
また、独身でいることが悪なのか?という問いかけもきっちりと描かれており(卵子凍結のヒヤリングを行うシーンも登場)、ゾーイの母が娘にかける「独立していることと周りを遠ざけることは違う」というセリフが利いている。つまり、“おひとりさま”を選ぶこと自体に善も悪もなく、親としては娘が孤立するのが心配なだけ――ということ。劇中では他にも、おせっかいを焼く親は自分たちの鋳型に子どもたちをハメたいのではなく、あくまで幸せを一番に考えての行動なのだ、という描写がなされる。
そうした“親心”に対して、“子の事情”が描かれていくことでドラマが生まれていく。例えば両親のために見合い結婚に踏み切るカズもそうだし、特別惹かれるものがなくても「恋に落ちるのではなく好意に落ちる」選択をするゾーイもそう。ゾーイはカズに「愛なしに結婚しないで。人生は短いけど悔やんで生きるのは長い」と言うが、一緒にいるなかで愛が芽生えていく可能性だって当然あるわけで――。
『きっと、それは愛じゃない』の中では“演技”という言葉が使われるが、肝心なのは「自分を偽らないこと」なのだろう。正直僕は前情報をほぼ入れずに軽い気持ちで観始めてしまったのだが、「こういう話なんだ!」と驚きつつ、上に述べたような思考が次々に生まれてきて非常に有意義だった。2023年の終わりに公開されるこの映画を通して、愛について、自分自身が大切にする生き方について、今一度考えてみること――。それはきっと豊かな時間になることだろう。
きっと、それは愛じゃない
story:ドキュメンタリー監督として活躍するゾーイは、久しぶりに再会した幼馴染で医師のカズから、見合い結婚をすることにしたと聞いて驚く。なぜ、今の時代に親が選んだ相手と? 疑問がたちまち好奇心へと変わったゾーイは、カズの結婚までの軌跡を次回作として追いかけることに。「愛もなく結婚できるの?」と問いかけるゾーイ自身は、運命の人を心待ちにしていたが、ピンときては「ハズレ」と気づくことの繰り返し。そんな中、条件の合う相手が見つかったカズは、両親も参加するオンラインでお見合いを決行。数日後、カズから「婚約した」と報告を受けたゾーイは、カズへの見ないふりをしてきたある想いに気づいてしまう──。
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PROFILE
ものかき
SYO
1987年福井県生まれ。 東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆、トークイベント・映画情報番組への出演を行う。 2023年公開『ヴィレッジ』ほか藤井道人監督の作品に特別協力。『シン・仮面ライダー』ほか多数のオフィシャルライターを担当。装苑、CREA、sweet、WOWOW、Hulu等で連載中。
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