Andrew Haigh
アンドリュー・ヘイ
1973年3月7日、イギリス生まれ。ハリウッド映画の編集者を務め、2009年に長編監督デビュー。11年の『ウィークエンド』で高い評価を浴び、長編3作目の『さざなみ』(15) はアカデミー賞主演女優賞の候補に。
中年のシナリオライターが子どものころに生き別れた両親と再会し、時間を取り戻すかのように交流を深めていく……。
1988年の大林宣彦監による異色作『異人たちとの夏』。山田太一の同名小説を原作にしたファンタジー映画の傑作。これを、イギリスのアンドリュー・ヘイ監督が脚色・監督した『異人たち』が、いよいよ日本公開。舞台設定はロンドンへ、主人公のセクシュアリテイをゲイにしたことで、より一層この物語の主たるメッセージが際立つという、奇跡のリメイクとなった。
「亡くなった両親に長い年月を経てから再会する、というアイデアは、原作を読んでからずっと頭から離れなかったんですよ。原作小説は伝統的な日本の幽霊ものではあるんですが、幽霊がどうこうというよりも、これは普遍的な親子愛、家族愛、そして人の性愛の物語だと理解できたんです。
それからは、現代のイギリスの文化に脚色する作業に取り組みました。特に主人公のセクシュアリティをゲイにしたのは大きな変更ですね。僕自身がゲイだからということもありますが、LGBTQ+の人々が避けて通れない親子の関係性について語りたいと思っていたんですよ」
ロンドンのタワマンにひとり暮らしの脚本家アダムは、別フロアの住人ハリーと知り合い、ちょっとした恋心を抱きつつも一歩踏み出せない。彼は30年前に両親と死別したことがきっかけで、人に本気で向き合えないことが密かな悩み。
そんなときに、両親と過ごした家を訪れ、なぜかあのころの姿で暮らす両親と再会……と、ちょっとオカルトめいた物語。なのに、ジェンダーやセクシュアリティを問わず、これを観た人は親と自分との関係、そして自分のロマンスについて考えさせられてしまう。
「そうそう。いわゆるオカルト映画になる可能性もある原作だったけど、僕が描きたいのはそっちじゃない。よくも悪くも脚本を書いたタイミングがパンデミックのロックダウン中だったので、自分の人生において失った人々のこと、会えなくなってしまった人について深く考えることができたんです。
それは劇中のアダムと同じような状況ですよね。それだけにこの物語は非常に個人的なモノにもなっていると思います。だからといってそれは自分だけのモノではありません。かつて自分がどんな人だったか、それからどのように前に進んでいくかという多くのことに向き合い、観た人が自分のこととしてとらえられる再会の映画。これを観ていただいて、一歩前に踏み出す気を見出すことができれば嬉しいです」
『異人たち』
story:40歳の脚本家アダム(A・スコット)は、子どものころに亡くした両親との思い出をもとにした新作に取り組んでいた。ある日、幼少期に過ごした家を訪れてみると、そこに他界したはずの両親が当時の姿で現れ……。
監督:アンドリュー・ヘイ/原作:山田太一/出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイ ほか/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン/公開:4月19日より全国ロードショー
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PROFILE
よしひろまさみち
『スウィート』のカルチャーページでもおなじみの映画ライター・編集者