1 NETFLIX『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
1920年代のアメリカ・モンタナ州、雄大に広がる山肌と地平線。ベネディクト・カンバーバッチ演じる牧場主のフィルは、西部男のロマンを体現したようなマッチョで豪胆なカウボーイだが、西部劇のような決闘やアクションは全くない。
フィルは、弟が新妻と連れ子を家に迎えたのが気に入らず、横暴に2人へのパワハラを繰り返すが、自身は秘密を抱えている。
意味深でヒリヒリした緊張感で、濃密な人間模様が不穏に描かれる中、物語は中盤からスリリングに急展開し、驚くべき果てへと続く。
そこでは、威圧的な“男らしさ”がいかに有害なのか、そして、違う形の強さと残酷さを持つ新世代による世代交代がつきつけられる。
生々しい自然の生命感と心理サスペンスをかけ合わせてジェンダー論を訴えたのは、『ピアノ・レッスン』の監督ジェーン・カンピオン。
本作は、第78回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞、本年度アカデミー賞の有力株といわれている。テーマ、演技、構成、伏線、カメラワーク、音楽—全ての完成度が圧倒的。
配信作品ながら、途切らずじっくりと観るべき深く美しき名作だ。
© Netflix
存在感がぶつかり合う各キャストの名演技
癖の強いイヤな奴キャラをただならぬオーラで見事に演じたB・カンバーバッチは、臭い設定のカウボーイになりらず、タバコの吸い過ぎでニコチン依存になるほどの役作りをしたとか。
アルコール使用障害に陥る義妹役のK・ダンストは、プレッシャーに負け内側から壊れる薄幸の老け役を熱演し、新境地を魅せた。おしゃれ番長らしく当時のドレスを着こなす彼女のファッションにも注目。
ひ弱な物腰の奥に底知れぬ恐ろしさを秘める医学生の息子を演じたコディ・スミット=マクフィーの繊細な演技も素晴らしい。
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
story:粗野で武骨な牧場主フィル(B・カンバーバッチ)は、仲間の男達にとってのカリスマ的存在。弟(J・プレモンス)が家に迎えた新妻(K・ダンスト)と連れ子(K・S=マクフィー)に敵意をむき出しにする彼だが、次第に心境に変化が起こる。
監督:ジェーン・カンピオン/出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キルステン・ダンスト、ジェシー・プレモンス ほか/Netflix映画/Netflixにて独占配信中
2 Blu-ray 『ソウルメイト/七月と安生』
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『少年の君』の監督デレク・ツァン×主演チョウ・ドンユイのタッグによる珠玉の青春映画。
対照的な2人の女性の数奇な運命を、繊細で流れるような映像美で描く。愛憎を超えた魂の交錯に強く心を揺さぶられる傑作。
監督:デレク・ツァン/出演:チョウ・ドンユイ、マー・スーチュン ほか/販売:ハピネット 発売:クロックワークス/¥5,280/2月2日発売
3 Netflix『地獄が呼んでいる』
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地獄行きを宣告された人物が神の使いに焼き殺される超常現象をめぐり、混乱する社会で台頭する新興宗教とそれに抗う人々。
ネットリンチなど現代のリアルが鋭く描かれ、絵空事とは思えない怖さと不吉さに最後まで目が釘づけになる。
監督・脚本:ヨン・サンホ/出演:ユ・アイン、キム・ヒョンジュ、パク・ジョンミン ほか/Netflix映画/Netflixにて独占配信中