ABEMA新オリジナルドラマ『30までにとうるさくて』と連動し、sweetWEBでは、ドラマの脚本協力を担当した大人気作家LiLyさんによる短期連載を掲載中。金曜日の夜21時は、ここでしか読めない素敵なエッセイに酔いしれて♡ あなたが誰にも言えずひとりで悩んでいたことのヒントが、見つかるかも。


『30までにと “自分の声が” うるさくて』

      by LiLy

#03
「触らないで、やりたくなっちゃうから」

 

「レスの期間はどれくらいですか?」
「1年半か……2年にならないくらいですかね」
「ふむふむ。その間に他の方との性交渉はありますか?」
「え?」
「他の方と」
「えーっと」

 カップルで参加したセックスセラピーにて、遥と女性セラピストとの会話である。もちろん、婚約者の奏多は別室で待機中。
 セラピストに守秘義務があるのは当然だけど、それでも婚約者と一緒に受けているセラピーで浮気の事実をカミングアウトするのは勇気がいるに決まっている……。

「別にあってもいいんですよ。
私だって聖人君子じゃないですから。
正直に話してみてください」
「……わたし、
たぶん人より性欲が強すぎるんです」
「ほう」
「もともとは、彼と順調だったんですけど、
たぶん向こうがわたしの性欲に
ついてこれなくなったか、
引かれちゃったかで、ある時から拒まれて……」

 浮気に至った経緯を含めて、遥は正直に打ち明けた。
 いつもはサバサバと姉御キャラで仕事をこなしている遙が、この時ばかりはまるで怯えた子猫のように、目を泳がしながら話す姿がとても印象的だった。
 レス問題にも一緒に向き合いはじめてくれた誠実な恋人を裏切ってしまった自分……。基本的にはどんな自分も受け入れてくれる、という前提がある女友達に話すのとはまたわけが違う。ただでさえ自責の念があるところに、他者からの、それも専門家からの“お叱り”が返ってきたら、と想像するだけでその不安は計り知れない。

「まずね、言いたいのは
性欲が強いことは
悪いことじゃないっていうことです。
したいって思うことも、
セックスを楽しむことも、素敵なことですよ!」

 セラピストはまず、遥の性欲を肯定した。その瞬間にひろがった遥の安堵の表情が、不安と自己否定感の大きさを物語っていた。
 確かに、誠実な恋人を裏切った遥は、良いか悪いかでいえばもちろん悪い。でも、遥の“葛藤”そのものは考えてみれば当然だ。

 男女を逆にしてみれば、
 葛藤がもっとすんなり伝わると思う。

 男、29歳。彼女からセックスを拒まれ続けてもうすぐ2年。仲は良いがキスもない。そんな彼女から「適齢期だしそろそろ結婚しましょう」と言われても……。「オ、オレの性欲を、よ、よくそこまでフルシカトできるよなぁ……」と、どもるレベルで唖然となってもおかしくない事態なのである。

――――――で、だ。
この男女をただ逆にしただけで、
一気に理解されづらい状態になる
ところにも大きな問題が隠れている。

 女にも性欲がある。そして、男でもそうであるように、その強さには個人差がある。しかもそれは、時期(年齢はもちろん、妊娠中や産後など)によっても大きく変化する。
 そんなの誰だって知っている事実ではあるけれど、社会的に「女の性欲」が「男の性欲」と同じレベルで公認されているかといえば「未だに超ノー」。
 たとえば風俗ひとつをとっても、男性の利用者については暗黙の了解=「男だもんね」がある一方で、女性が風俗を利用するという“話題”だけでも「特殊な女もいるもんだね」というような感想がメジャー(多数派)なのである。
 それどころか、性欲の強い男は「男らしい」と褒められがちだし自らもそのことに自信を持っている人が多いのに対して、性欲が強い女は「女なのに……」と、何故か自分を恥じなくてはならないような罪悪感に悩まされている人も少なくない。
 ジェンダーレスが叫ばれて久しいが、「男だから」「女だから」とシンプルに性別で人間を区別するやり方には限界がある。もちろん本能的な部分における性差はあるけれど、その人それぞれの「性質」は「性別」をこえる。

たとえば、
今回のタイトルにもした遥のセリフ
「触らないで、やりたくなっちゃうから」

 セックスをしてはならない相手だと頭ではわかりながらも、これ以上距離を縮められたら発情を我慢できなくなる、というシチュエーション。そんなにもエロい状況の中にいる人間に、「男だからそう思う」「女ならそうは思わない」は全く当てはまらない。
 人による。
 男でも淡白なタイプはいるし、もう一人の主人公:恭子のように「セックスがそんなに好きじゃない」という女もいるわけだから。
 ただ実際に私のインスタには「このセリフに一番共感しました」という女の子からのDMが多かった。一番多かった(笑)。冒頭のカウンセラーの先生の遥へのリアクションと同じように、「えー! 元気があって最高だね!」と私も率直にただただそう思って微笑んだ(誰)。
 でも、二十年前のドラマではこのセリフを女性が言うなんて考えられなかっただろうな、とも思う。
 令和になってからキャストを新たなにリメイクされた名作ドラマ『東京ラブストーリー』のヒロイン、リカのパンチライン=「カンチ! セックスしよ!」は当時とても衝撃的だったが、リカ=帰国子女の破天荒な女という設定がベースにあった。
 特殊な女もいたもんだ。でも意外とスーパー魅力的かもね! というようなキャラクター。でも、最後にカンチが結婚相手として選んだのは、そんなことは絶対に言わないコンサバタイプの里美であった。そこがまたどうしようもなくリアルだったために“全国のリカ”が泡を拭いて死にそうになる、という昭和を語る上で外せない事件も起きたわけだけど(当時まだ小学生だったのに私は自分の中にリカを見て、将来に大きな不安を覚えた(笑))。
 一方、今作のヒロイン:遥は、わりと等身大の“コンサバな29歳”として描かれている。「保守的な人生を歩んでいる主役の女性のキャラ設定=性欲がマジで強い」この点において、私はこのドラマに“令和”を感じる。(めちゃくちゃ褒めている)。
 なにをもってコンサバか? 育った家庭環境/受けてきた教育を含めた今の遥の社会的な立場と今後の希望がそれだ。
 遥が適齢期での結婚を考えているのは子供を二人以上希望しているからで、新卒で入社した企業にて、このまま産休と育休をとってキャリアと育児の両立を目指したいと考えている。
 それが大きすぎる野望だとも、高望みで欲張りだとも私は全く思わない。(妊娠/出産に関しては100パーセントというものがない領域だけど)実際に私の大学時代の女友達のほとんどがこのコースをすすんでいる。保育園で知り合ったママたちも、多くがそうだ。

そりゃあもちろん大変だけど、
仕事と育児の両立は可能である。
そしてコンサバ層の離婚率は
私が見る限り他の層より低い!
(ちなみに私はバツイチだ…)

 セラピストは遥の性欲を肯定した後で、こう続ける。

「今の時代、
道徳的にどうこう言われちゃうけど、
複数人の方と関係を持つこと自体が
必ずしも悪いわけではないんです」
「……」
「結婚したってセックスは他のところで
って割り切っている夫婦だっていますし」
「え?」

 セラピストの提案がぶっ飛んでいるように聞こえるかもしれないけれど、離婚はせずともセックスの相手だけは家庭の外に見つける夫婦もそんなに珍しくはない。
 互いにそれを口に出して了承し合っている(=オープン・マリッジ)夫婦はまだ珍しいとは思うけど、暗黙の了解として「家庭」というカタチを守る(離婚はしない)選択をする夫婦があっても良いと私も思う。
 私自身はそれ(浮気や不倫)が嫌で、だから男と女としての婚姻関係は解消し、だけど父と母としては結婚している時と同じように一緒に育児をするというカタチで家庭を守るスタイルをとったのだけど、やり方が違うだけで夫婦が直面した問題そのものは同じようなもの。
 浮気や不倫に「共感」はできないが、何故夫婦がそこ(男女関係の維持が困難な状況)におちいってしまうのかの「理解」ができないはずがない。

「そうやって割り切っても、
それでお二人が仲良くやっていけている
のであればそれはそれでいいと思うんです。
いろんな関係性があっていいんですから」
「はい……でも」

―――でも、互いに浮気を公認するって
最初から決めて「結婚する」って何だ!?

 カップルが末長く健やかに、互いへの発情の火を消すことなく愛し合うことがどんなに困難であるか。そんな現実を、多くのカップルは結婚する前に知ってしまっている。いや、それどころか遥たちの場合、永遠を誓う前に性愛の火種が枯渇してしまっている。いやいや、もっと困るのが遥の場合、性欲じたいはみじんも枯れちゃいないこと。

ここで、例のセリフである。
遥、肩に触れられただけで、
我慢できないほどに発情(笑)。

「だから無理だって言ったんだよ。
だいたい禁欲ってうまくいかないでしょ。
ダイエットで食べないとかさ、
セックスしたいのにしないとか、
無理なんだよ。
遥は特にそれが強い人間なんだから」

 遥にセックスセラピーをすすめた親友、恭子のセリフである。そう、遥は我慢ができなかった。それどころか、「……あの日、めっちゃよかったんだよね」なんていうイメケン同僚との浮気セックスに対する本音まで漏らしてやがる。……。
 遥の中の婚約者に対する罪悪感、あるようでない。いや、ないようである。きっと、私からの誘いを拒んだのはそちらでしょ? という怒りも自覚していようがいなかろうが多少は根っこにあるように思うし、罪悪感一つをとっても、黒か白かに割り切れるものでもない。複雑なのだ。

ただ、コンサバ街道の
花道を歩く賢い遥なら、
これだけは覚えておいて欲しかった。

――――Don’t Shit where You Eat.

 わりと下品な言い方ではあるが、的をえている超有名なアメリカン・パンチライン。和訳するなら:「トイレでごはん食べるやついる?」ダイニングルームとバスルームはきっちりと分けましょうねって意味だ。

つまり、職場に
色恋(浮気セックス)
持ち込むべからず!!

 今後の自分のキャリアをかけた、ビッグプロジェクトのチームメイトに対して「昔から知っているし、イケメンだし、褒められて嬉しかったから、つい……」は正直アホだと思う。
 そんな危ない橋を渡るくらいなら、性欲を解消するためにどこにも繋がりのないワンナイトの相手をアプリで探した方がずっとずっとマシだ。
 もちろん、前者の方が「つい魔が刺して…」という言い訳が可能だし、後者の方がビッチ感は高いだろう。でも、30過ぎてその手のナチュラルさ(なにも考えずに欲に流される)はより多くの人を傷つけ、より大きなトラブルを生むだけだ。
 どうせ欲を優先するなら、せめて場所は選ぶこと。
 これは最低限のマナーであり、結婚後もココの線引きが曖昧なヒトは、子供関係の仲間内でやらかしたり、と取り返しのつかない事件を起こしがち。
 男女が傷つけ合うのは、愛し合った時点で互いが負ったリスクなのだ。ある意味これはもう仕方がない。でも、子供だけは巻き込んではいけない。線引きのだらしなさは、将来、自分の子供をも傷つけるリスクをはらむ。
 とても大事なのでもう一度――――Don’t Shit where You Eat. これを侵してしまった遥は、どえらい代償を払うこととなる……。

これ、
30までに覚えておくべき
大切な教訓の一つである。 

◆次回予告◆ 2/11更新
#04「 傷つくの、いやだなぁ 」


profile_LiLy
作家。81年生まれ。神奈川県出身。蠍座。N.Y.、フロリダでの海外生活を経て上智大学卒。著作多数。Instagram_@lilylilylilycom


◆「ABEMA」オリジナルシリーズ新作ドラマ

『 30までにとうるさくて 』番組概要


毎週 夜10時スタート(全8話)
企画・プロデュース:藤野良太
脚本:山田由梨
演出:金井紘
出演:さとうほなみ・山崎紘菜・佐藤玲・石橋菜津美

<あらすじ>
「30歳までに結婚しないと…って焦るけど、なんで?」「子供を産むなら年齢は気にした方が良い?」 「29歳、私たちこのままでいいのかな」など、“30歳”という節目の年齢を意識する女性ならきっと誰もが一度は感じたことがある悩みや焦り、怒りを抱えながらも、自分たちの意思で乗り越えていく姿を、ユーモラスかつ痛烈にオリジナルストーリーで描く、現代の東京を生き抜く29歳独身女性たちの恋、キャリア、性、友情の物語。


番組の視聴はこちらから♡

illustration_ekore(@igari_shinobu & @hello_chiharu)
edit_SWEET WEB
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