1月に発生したLAの大火のために、シーズン真っ只中な映画賞の数々は例年よりもおとなしめ。だけど、候補入りしている作品群、俳優陣は目新しさが際立つ。アカデミー賞前哨戦の最重要ポイント、全米映画製作者組合賞と全米監督組合賞の候補に入っている『ANORA アノーラ』は、とびきり笑えて切ないオリジナル作品だ。「役作りや作品に注いだ情熱が理解されるのは本当に嬉しいわ」と語るのは、主人公アノーラを演じたマイキー・マディソン。

「この作品がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したことで、みんながこの作品を好意的に受け止めてくれているのが素晴らしいと思っていました。私が演じたアノーラはストリップダンスのクラブで働くセックスワーカー。だから、セックスワークに関してもリサーチを重ね、セックスワーカーのコミュニティに対して敬意を払いつつ、正しく演じることを心がけました」

アノーラはクラブに訪れたロシアのオリガルヒ(新興財閥)御曹司イヴァンから見初められ、大金で彼の契約彼女に。そして勢い結婚。そこまではただの甘いラブストーリー。ところが、ここから猛烈な勢いのコメディになる。イヴァンのお目つけ役が訪れるや否や、彼は逃走。彼女とお目つけ役は、彼を探すために奔走する。こんなストーリー、どうやって思いついたんだか。

「じつはショーン (・ベイカー監督)と私が共同でリサーチと脚本を担当しているの。こういうコラボは初めてだったけど、積極的に作品に関わるチャンスをもらえたのは嬉しかったわ。私にとってのチャレンジはロシア語。アノーラは祖母がロシア出身という設定だったから、セリフを理解できるレベルまで収録しないといけなかったの。初めてセリフに挑戦したときは、コーチとの2時間のセッションを終えた後で、あまりにも大変で泣いてしまい‟これは無理かもしれない”と思ったほど。ロシア語を12時間聴き続けて、寝落ちしてしまう日もあったわ」

自分の仕事と生き方に自信を持っているものの、経済的に厳しいアノーラには、観ている誰もが応援したくなる。監督からは「70年代の映画を観ておけと言われた」とか。

「ショーンに影響を与えた作品群なのでしょうし、私がキャラクターを演じる上でインスピレーションになる作品だとも思ったのでしょう。72年の日本映画『女囚701号/さそり」などを送ってくれて、すごく面白かったし役に立ったわ」