ABEMA新オリジナルドラマ『30までにとうるさくて』と連動し、sweetWEBでは、ドラマの脚本協力を担当した大人気作家LiLyさんによる短期連載を掲載中。金曜日の夜21時は、ここでしか読めない素敵なエッセイに酔いしれて♡ あなたが誰にも言えずひとりで悩んでいたことのヒントが、見つかるかも。


『30までにと “自分の声が” うるさくて』

      by LiLy

#04
「傷つくの、いやだなぁ」

 

男女が傷つけ合うのは、
愛し合った時点で
互いが負ったリスク。
結果:「仕方がない」。

――――前回の記事にこう書いた。恋をした成人同士の精神的な傷つけ合いは、人選含めて互いの身からでたサビ。「だが、しかし、子供だけは巻き込むな」が私の座右の銘である(故に再婚願望もない)。
 人間、好きになると欲が出る。最初は、あなたが幸せそうに笑っていてくれたら嬉しい、という純度の高いライクだったところから、その気持ちが関係の深化とともに徐々にラブへと進化していくにつれ、すぐに己のエゴが絡み出す。
 たとえば、身体の関係を持った直後、自分からの連絡は無視しているくせに誰かと一緒に幸せそうに笑っている相手の横顔を見かけたとしたら、どうだろう。ナニ笑ってんのあいつ、にまで感情が変化した自分にハッとするだろう(笑)。
 もっと一緒にいたい。もっと自分だけを見て欲しい。ずっと一緒にいたい。ずっと自分だけを見て欲しい。もっともっともっと……ずっとずっとずっと……の行き着く先が「誓い合い」=好き合ったもの同士の最もメジャーな着地点として社会で定められているゴール=「結婚」だ。
 これだけ多様性が叫ばれているのに、「幸せになりたい」「あの人には幸せになって欲しい」など、世間一般での「幸せの定義」も未だにまるっと「そこ」(愛し合っている者同士がともに生きてゆくこと)に設定されているように思う。(違和感はある)。
 もちろん、愛する人と共に生きるって最高だし最強だ。でも、距離感を限界まで詰めるということは即ち、その道中で最も鋭く傷く可能性だって秘めているってわけ。
 そもそも「永遠にお互いだけ」という無謀な約束そのものが、よくよく考えたら世界一ぶっ飛んでいるため、無傷でいられる可能性の方が低い。けれど、だからこそ、そこには巨大なロマンがあるともいえる。

 これが結婚の、否、恋愛結婚のリアル。

 神様の前で永遠を誓い合う、という行為そのものがクレイジーロマンティックなのである。ハリウッド映画みたいで、それは最高! また、恋心云々ではなく、経済的な生活基盤の強化およびパートナーとしての相性を重視した結婚もあって、それもそれでリアリスティックで最強! ―――ま、とは言っても結婚願望のある人の大半が、それらの中間地点(相手に恋もしているし、冷静に考えて条件的にも互いに良い)を求めているのが現実だろう。

 四組に一組が離婚をする世の中だけど、それでも
「結婚」という夢を追うドリーマーは後を絶たない。

 「なんとなく普通はするものだと思って生きてきたから」という幼い頃からの刷り込みも、中には根深く染み渡っているとも思うけれど、それでも、傷つくリスクを追いながらもラブとライフが重なり合う地点を求めて、時には情熱的に、だけどあくまでスマートに、一生懸命「愛と共に生きていこう」とする姿勢は勇敢で素敵。

――――【シーン15 詩の家】
ベッドに一緒に入っている詩と真琴。
詩が真琴の頭をなでてから、
ベッドの横に置いてあった指輪の箱をだす。
「なに?」「あけてみて」
箱を開けてみると、ペアリング。
詩、真琴につけてあげる。
詩も自分の指にはめて、その手を並べて見る。
「どう?」「めっちゃかわいい」「でしょ」
詩が真琴に抱きつき、二人はベッドの中で笑い合う。

 お揃いのリングは交際1周年記念のプレゼント。恋と愛とが共存するラブラブ絶頂期に身を浸している二人――詩と真琴。ドラマの主要キャストの中で、今のところ唯一上手くいっているカップルである。
 レスとか浮気とか、そんな心配など(まだ)一ミリたりとも必要ないほど、互いに夢中。今の二人を阻むものなど何もないかのように思えるが、この後すぐに二人は破局することになる。唯一にして最大の問題は、「二人が同性同士である」ということだった。

突然、真琴から突きつけられた別れに傷つき、
だけど努めて冷静に「仕事のため?」と詩は聞いた。

「それもあるけど そうじゃなくて。
たぶんわたし耐えられないの。
これからの人生、
レズビアンとして生きていくって、
想像しただけで、
大変なことのほうが多すぎるって思っちゃう。
将来結婚もできないし、まだ親にもいってないし。
うち田舎だし、親に言ったら
どんな反応されるか想像つくし。
傷つくことが多すぎる。
私さ……傷つきたくないの」

「そっか。誰だって、
無駄に傷つきたくないよね」

 最愛の人が自分から離れてゆく時、エゴより何より、真っ先に相手の葛藤と苦しみを理解しようとした詩の人間性に、その愛の大きさに、胸を打たれた視聴者は私を含めて多かったはず。
 冒頭では、ライクがラブへと深化するにつれて自分が相手に求める“見返り”の比重もエゴイスティックに上がりがちだと書いたけれど、詩は違った。

「私がもっと強かったら良かった。
ごめん……ごめんね」と、
泣く真琴を優しく抱き寄せて、
「わかったよ。わかった」と、
ただただ理解を示したのである。

 これは詩が、「傷つくの、いやだなあ……」と本音を漏らしてから、勇気を出して出向いた二人の話し合い。だから、真琴に向けて優しく言った「誰だって無駄に傷つきたくないよね」は心からの言葉だろう。だけど、愛し合う二人が、その関係の中で傷つけ合うのならまだしも、ただただ一緒にいることで、社会によって傷つけられるシーンが増えてしまうから、という破局理由はあまりに哀しい。

真琴との別れを受け入れた詩も、
馴染みのバーでは悔しさを漏らす。
「どうしてうちらだけさ、
強さとか覚悟とか求められんのかなあ。
覚悟なんかしないでも、
生きれるのっていいですよね……」

 ハッとさせられるセリフだった。残念なことに、異性愛者には必要のない、だけど同性愛者には必要な“覚悟”というものはまだまだ絶対にある。LGBTへの理解が近年になって急速にすすみはじめたものの、マイノリティ側へと追いやられてしまう人たちにとって生きやすい社会にはなっていない。そして今回の詩と真琴のように、同じ同性愛者でありながらも自分のセクシュアリティをオープンにして生きるかどうか、に差が出ることも彼らの生きづらさに拍車をかける。
 「自分らしく!」「堂々と!」「多様性の時代!」
 本来はポジティブなこれらのシャウトによって、追い詰められる人たちもいる。それは、社会のほうの受け入れ態勢がまだ整っていないからだ。

カミングアウトは、
するもしないも本人の自由。

 社会的な基盤が未熟であるのはもちろん、真琴のセリフの中にもあった「親の理解度」や、それぞれの職種によっても、同性愛をオープンにすることへのハードルの高さには個人差があるからだ。
 それが誰より分かるから、詩はただただ真琴を理解して、あなたは悪くないよと包み込んであげたのだと想像する。「(レズビアンだと)結婚もできないし」という真琴のセリフから、本当は愛する人と自分も「結婚」をしたいと思っていることが透けて見える。
 2015年に、東京の渋谷区と世田谷区では同性カップルを自治体が証明する「パートナーシップ制度」というものができた。が、これは国が法律で認めた「結婚」とは全く異なるもので、まだ日本では同性婚は認められていない。
 する/しないは別として、異性愛者が当然のように持っている「選択肢」=「結婚」を、同性愛者は持てないというは「差別」である。

「令和にもなって、
好きなもの同士が
権力に阻まれる話
なんて嫌だねぇ……」

 詩と真琴を良く知る馴染みのバーのオーナーのセリフに頷きながらも、「まだまだ令和……」とも思う。
 人々の「意識」のほうが少しずつ変わり始めてきただけで、変革の本番はきっとここから……! 社会における女性の立場も含めて、性別やセクシュアリティによって区別されることなく、誰もが同等のチャンスとリスペクトを与えられる世の中へと一刻も早く変わっていくべき!!―――――と、心の底から願いながらも、恋愛エッセイを書くにあたって、ただただ分かりやすいという理由から、すぐに「男女」と書いてしまう自分自身のことも今回大きく反省した。(これについては次回さらに掘り下げる)。 

 詩が、誰も悪くないからこその「悲痛な破局」に傷ついている頃、浮気をした遥は「自業自得の大ピンチ」に直面していた。
 フリーだとばかり思っていた浮気相手:知也の“彼女”を名乗る(これまた同じ社内の!)女の子が、裏切られた怒りに燃えて浮気の証拠写真とともに詳細をツイッターにアップしたのである! 
 “クソ彼氏”として知也のアカウントがタグ付されていたことで、そのツイートは光の速さで社内に広まり、遥は上司から呼び出された!!
――――そんな怒涛の展開によってドラマ本編では“一番ヤバい奴”として置き去られている“浮気をS N Sで暴露した彼女”だが、どう考えたって彼女も凄まじく傷ついたのだ。
 実はチーム内の女子を食い散らかしていた=もはや「I Shit whrere I Eat主義者」(※前回のエッセイ参照)ともいえる知也は、「付き合っていたつもりはなかった」と遥に弁解するものの、その電話を会社の非常階段に座りながらしている図からして、スーパー逃げ腰でビビっている(笑)。
 よく、考えて欲しい。彼氏だと思っていた大好きな相手に浮気され、しまいには陰で「付き合っていなかった」とまで言われるって、どうだ。恋心が砕け散っただけでなく、プライドのほうもズタズタだ。

恋をする「悦び」にはもれなく
傷つく「リスク」もついてくる。

 これは正論だけど、鋭く傷つけられた張本人にとっては、「そうだよねえ、自分で負ったリスクだもんねえ」なんて思える余裕は皆無。ここで、リアルなナイフを手にもつ者だっているのだ。

 恋愛のこじれは「生死」に関わる。

 その心の傷の深さによっては、「心」だけでは済まない致命傷へと発展する場合がある。今回の彼女の場合は、SNSをナイフとすることで彼の社会的抹消を試みた、というわけだ。
 褒められたことではないし共感もしないけど、でも、知也のことを一番好きだったのはきっと彼女だろう。
 一方、「マズいことになった」とは誰よりも思っているに違いないが、知也自身は傷ついてはいないだろう。つまり、「いいな」「エロいな」と思ったから手を出しただけであって、誰のことも「好き」ではなかったのだ。

「好き」の大きさと「傷」の深さは比例する。

 遥のように、長年のレスというある意味正当な理由を持ってしてでも、浮気はやはり立派な裏切りであり、社内で問題になったところで自業自得と言わざるを得ないけれど、それでも、大好きな彼氏に対する自責の念があるからこそ傷ついていることには違いない。
 そして、詩のように、どちらにも裏切りと呼ばれるような行為はなくても、幸せの絶頂から一転、別れを切り出されてしまうこともある。相手のことが大好きだからこそ、理解して受け入れて、だからこそ、今、めちゃくちゃに傷ついている。

―――でもね、 
「いやだなあ、傷つくの」
誰かの切実な呟きは、
「いいなあ、そんなにも愛せて」
誰かからの羨望の眼差しともセットなの。

◆次回予告◆ 2/18更新
#05「 自分のまわりから変えていきたい。
そうやって世界は変わっていく 」


profile_LiLy
作家。81年生まれ。神奈川県出身。蠍座。N.Y.、フロリダでの海外生活を経て上智大学卒。著作多数。Instagram_@lilylilylilycom


◆「ABEMA」オリジナルシリーズ新作ドラマ

『 30までにとうるさくて 』番組概要


毎週 夜10時スタート(全8話)
企画・プロデュース:藤野良太
脚本:山田由梨
演出:金井紘
出演:さとうほなみ・山崎紘菜・佐藤玲・石橋菜津美

<あらすじ>
「30歳までに結婚しないと…って焦るけど、なんで?」「子供を産むなら年齢は気にした方が良い?」 「29歳、私たちこのままでいいのかな」など、“30歳”という節目の年齢を意識する女性ならきっと誰もが一度は感じたことがある悩みや焦り、怒りを抱えながらも、自分たちの意思で乗り越えていく姿を、ユーモラスかつ痛烈にオリジナルストーリーで描く、現代の東京を生き抜く29歳独身女性たちの恋、キャリア、性、友情の物語。


番組の視聴はこちらから♡

illustration_ekore(@igari_shinobu & @hello_chiharu)
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