私が好きな本

物書き
SYOさん
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1987年、福井県生まれ。映画ほかエンタメ系ライター。今年は新作映画年間200本観賞を目標に頑張りたいと思います。

読みやすいがえぐられる
日常の残酷さを描く短編集

昔から、短編集に惹かれます。前々回ご紹介した村田沙耶香さんの『生命式』も短編集ですね。

なぜ短編集が好きなのか? 読みやすいのももちろんですが、個人的に思うのは「濃度」と「密度」です。人生の一瞬を切り取る作品や、ある強烈な感情を叩きつけるもの……。その作家の“色”が凝縮されて心になだれ込んでくる。その瞬間がたまらないのです。

今回ご紹介する朝井リョウさんの『どうしても生きてる』も、ぐさりとやられた短編集。会社員や劇場スタッフといった“普通の人々”の日常に起こる事件を描いた全6編の物語です。

短編集は音楽アルバムにも似ていて、読み終えた後にお気に入りの1編を考えるのが楽しいもの。個人的には、年下の恋人がいる女性を主人公にした「健やかな論理」がオススメです。彼女の日々に対する微かな厭世観がつづられた文章に挟み込まれる、謎のTwitterの投稿。これは何だろう? と思いながら読み進めていくと、驚きの展開が待ち受けています。

派遣社員の悲哀を描いた「七分二十四秒めへ」も、衝撃と余韻がズン、と残ります。リアルな心情描写に唸らされつつ、読み終えたときにタイトルの意味が分かる仕掛けも施してあり、完成度が抜群。

全作品に共通するのは、人間の心が持つ矛盾。我々が社会生活を送るうえでひた隠しにしている残酷さを見破られたような畏怖―。ぞっとするのに心地よい、恐るべき短編集。ぜひお試しください。

『どうしても生きてる』
朝井リョウ 著 幻冬舎
¥781(発売中)

web edit_ASUKA CHIDA
※記事の内容はsweet2022年3月号のものになります
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