sweet誌面で映画や小説・漫画を毎号紹介している物書き・SYOさんが今月の推し映画を紹介する連載【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】

vol.6の今回紹介する推し映画は、永瀬廉・杉咲花・北村匠海の実力派若手俳優が共演することで話題に上がっている『法廷遊戯』

映画を観たくなる要素は色々とあるが、その中で最も華やかなのはやはり作品の“顔”である出演者だろう。推しの俳優が出ているから、或いはこの人とこの人が共演するから気になるというのはひょっとすれば最もライトな作品のタッチポイントといえる(持論だが、映画のコアファンになるプロセスは俳優→監督→脚本家や各スタッフ、或いは配給会社……と流れていくパターンが多い。より気になる要素が細分化・玄人化していくのだ)。

勿論、コンテンツ過多の現代、観客が「観よう」と思うまでのハードルは年々上がっているため、好きな俳優が出ているだけではガチファン以外だとなかなか劇場に足を運ぼうと思えない、というのもこれまた事実。そうなってくると、先に挙げた「豪華俳優の共演」であったり、「どんな役か(つまり、どんな物語なのか)」といった次なる要素の総合点で「よし、これは劇場で観よう」と判断する傾向が強まる。

小難しいことを書いたが、要は「好きな俳優やいい俳優がたくさん出てると観たい欲が増すよね」という話。そういった側面において、永瀬廉・杉咲花・北村匠海が共演したノンストップ・トライアングル・ミステリー『法廷遊戯』(公開中)は、観賞欲を十分に刺激してくれる作品であろう。出演者が豪華なだけでなく、この映画――各々の特性がいかんなく発揮された「キャスティングの勝利」感の強い1本なのだ。

その部分について言及する前に、まずは簡単に作品の概要を紹介しよう。法律家を目指し、ロースクールで日々勉学に励む清義(永瀬廉)。無事に司法試験に合格し、弁護士となったある日、同級生だった馨(北村匠海)から連絡が入る。学生時代に流行っていた模擬裁判「無辜ゲーム」を再びやらないか、と。集合場所に着くと、そこには血の付いたナイフを持った幼なじみで元・同級生の美鈴(杉咲花)、既に息絶えた馨の姿があり……。かつての学友が、弁護士・容疑者・被害者として再会してしまうのだ。物語は現在と過去を行き来しながら、この事件に隠された真実を紐解いてゆく。

『法廷遊戯』は法廷モノ×本格ミステリーであり、誤解を恐れずに言えば序盤の展開は少々難解だ。学生時代の「無辜ゲーム」から美鈴の周りで起こる不審な事件、馨との日々などがハイスピードで展開してゆく。聴き慣れない単語や言い回しもあるし、本題に行くまでをギュッと凝縮させた構成になっているため、初見でついていくのは技術を要するようにも感じられる。ただ、そうした中で我々観客がよりどころにする役者陣が、実に効いている。

愁いを帯びた永瀬廉、壮絶な人生を匂わす杉咲花、理想を体現したような北村匠海。各々が纏う雰囲気や、ちらつかせる感情をキャッチしていくことで、頭の部分で解析に時間がかかったとしても心の部分で振り落とされない。同時に、各々が持つカラーと役どころの親和性が抜群のため、キャラクターの理解や説明を省けるというのは僕自身、本作で得た大きな発見だった。永瀬・杉咲・北村がそこにいれば人物が自ずと立ち上がり、我々観客も「この人はどういう人で、関係性はこうで……」と考える必要がなくなる。その点は実に爽快だ。

そして、全ての真実が明らかになったとき、それぞれの芝居がスパークする瞬間が到来する。ネタバレに触れないようにするため詳細の言及は控えるが、個人的には「杉咲花さん、とんでもねぇな……」と震える瞬間があり、それを観られたというだけでも満足感が跳ね上がった。もちろんそこには本作のストーリー展開の面白さも含まれるわけだが、机上のトリックを人間性が追い抜いてゆくような、つまり策に溺れず、そこにちゃんと人間の痛みや人生が紐づいている中身になっているのは、やはり役者陣の業(わざ)なのであろう、と感じた次第。様々な側面から楽しめる作品ではあるが、自分はこの点を推したい。

『法廷遊戯』

法曹の道を志す者たちが学ぶ、法科大学院=別名・ロースクール。そのゴールにある司法試験は国家試験の最難関といわれていて、そもそも受験資格自体、ロースク―ルを卒業するか、予備試験に合格するかでないと得られず、法律の知識を有する受験資格を得た者であっても合格率はわずか20~40%に過ぎない。名門・法都大学のロースクールに通う“セイギ”こと久我清義もまた、平均勉強時間5000時間の法律漬けの毎日を送っていた。

そんなある日、セイギの過去を暴くビラがばら撒かれる。それは当時16歳の彼が、殺人未遂の疑いで逮捕されていたというもの。児童養護施設の出身だったセイギは、共に施設で育った織本美鈴を守るために、施設長を刺していたのだ。その美鈴もセイギと行動を共にしてロースクールの同級生となっていたが、彼女もまた何者かから嫌がらせを受けていた。犯人探しに動き出したセイギは、生徒たちの間で繰り広げられている裁判ゲーム“無辜ゲーム”の主宰者・結城馨も脅迫を受けていたと知る。

司法試験合格後、弁護士となっていたセイギは、久しぶりに無辜ゲームを開くという馨に呼び出されて、その会場を訪れる。そこにいたのは馨と美鈴だけだったが、馨が血を流して息絶えているのに対して、美鈴はナイフを手にし返り血を浴びて放心していた。「お願い、清義。私を弁護して」。無罪を主張する美鈴は証拠となるSDカードをセイギに託しながらも、一切の供述を拒み、黙秘を貫く。一方、セイギは、馨の足跡を追う中で、彼の亡き父親とかつて相対していたことを知る。殺人未遂だけではない、セイギと美鈴の隠された過去。そして、馨、セイギと美鈴の秘められた因縁。

それに気づいたセイギは、美鈴の第一回公判で法曹関係者もマスコミも驚かされる意外な弁護に打って出る。接見の際に美鈴が口にしていた、「これは、結城くんが仕掛けた最後のゲーム。ゲームのプレイヤーは貴方なの」の言葉。SDカードに収められたデータが公開されて、事件の様子が明らかとなるが、そこでセイギはさらなる驚愕の事実にたどり着く。二転三転する真実。四転五転する真相。ゲームさながらに次々と局面が変化し、勝者とジョーカーが入れ替わっていく中、セイギは己のすべてを懸けて究極の選択を取る。

セイギの悔い、美鈴の狙い、馨の想い、そして無辜=罪のないことを意味する言葉を冠した裁判ゲームが意味していたもの。果たして本当に罪を犯したのは誰で、本当の罰を受けるべきなのは誰なのか。3人がこのゲーム=法廷に見出した答えとは何なのか。ついに訪れた判決宣告期日。セイギはある確信と不信を持って、裁判長の判決を耳にする。

映画『法廷遊戯』公開中

出演:永瀬廉 杉咲花 北村匠海 戸塚純貴 黒沢あすか 倉野章子 やべけんじ タモト清嵐 柄本明 生瀬勝久 / 筒井道隆 大森南朋

原作:五十嵐律人『法廷遊戯』(講談社文庫)

監督:深川栄洋、脚本:松田沙也、音楽:安川午朗

プロデューサー:橋本恵一、本郷達也

主題歌:King & Prince「愛し生きること」(UNIVERSAL MUSIC)

Ⓒ五十嵐律人/講談社 Ⓒ2023「法廷遊戯」製作委員会

配給:東映

公式サイト:https://houteiyugi-movie.jp/