共感者続出中、推しがいる方必見の映画『成功したオタク』【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】
sweet誌面で映画や小説・漫画を毎号紹介している物書き・SYOさんが今月の推し映画を紹介する連載【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】
vol.19の今回紹介する映画は、推しがいる方にぜひ見てほしい映画『成功したオタク』。
コロナ禍のなかで社会にも自分の価値観にも様々な変化が生まれたが、個人的にそのひとつに「不信」がある。これまでのように他人を盲目的に信じるのはやめよう、と決めたというよりも、信じられなくなってしまったという感覚だ。コロナに直面して身の回りの人が特定の思想にハマる姿を目の当たりにしてしまったり、毎日のように芸能人の不祥事を目の当たりにしたり……。フリーランスの物書きなんかをしていると余計に「信じても裏切られるばかりだしやめとこ」みたいな心理になって、そうした感情からは距離を置くようになった。
そんな自分だからこそ、誰か特定の個人を熱狂的に推すファンの生態には興味があった。自分自身とは真逆だからだ。宇佐美りんの小説『推し、燃ゆ』なども読んだが、引いた作者の目線が心地よく感じてしまい、どうにも違う。そんななかで、センセーショナルな映画に出合った。推しが犯罪者になってしまったファンたちの声を集めたドキュメンタリー『成功したオタク』だ。
長年追いかけていた芸能人が性犯罪容疑で逮捕され、失意のどん底に落ちた女性が一念発起し、作り上げたというドキュメンタリー。劇中では何人ものファン(女性)が登場し、各々が推していた相手(男性)が犯罪者となったことで、どんな気持ちになったかを語っていく。映画自体は割と明るいトーンで作られていて見やすくはあるのだが、各々が語る赤裸々な想いは突き刺さるものばかり。
あるファンは「推し活って依存症に似てる」といい、「自分は犯罪者を支持していたことになる。ファンも二次的な被害者」と複雑な表情を浮かべる。またあるファンは「若者から母親世代まで大半のファンは女性。なのに、なぜ裏では女性にひどいことを?」と憤る。「私たちがアルバムを買ったお金でこういうことをしていたの……?」と愕然とするファンも。いずれのファンも、まだ気持ちの整理はついていない。
監督は自分が長年集めたファングッズを処分しようとするが、「裏切られた」と感じ、軽蔑していたはずなのに推し活の思い出語りを始めてしまった自分に気づく。そんななかで、「ファンが調子に乗らせて犯罪に走らせたのでは?」「二次加害をしていないか?」と悩むようになり、犯罪者のファンは被害者か、加害者かという問いに向き合っていく――。
本作ではただファンに話を聞くだけでなく、かつて対立した記者や、芸能人のファン以外にも不祥事を起こして失脚したパク・クネ元大統領の支持者への取材も敢行。母親とも対話も織り交ぜながら「誰かを推すこと」について多角的に考え、傷つきながらも一歩踏み出そうとする彼女たちの姿を捉えていく。そのさまを観ながら、僕は誰かのファンになる喜びと苦しみを想像していた。自分はこの先も、誰かを全肯定するファンにはならないだろう。その甘い幻想に浸るには、あまりにも多くの罪を犯したり、炎上したりする著名人を目撃しすぎた。誰かを盲目的に信じるのは怖いことだとも思う。ただ、夢を見た彼女たちは自分とは別世界の人間ではなく、信じていたかったのだなと感じた。終盤、監督が語る「二度と昔のように好きにはなれない。でも誰かを好きになることは止められない」という言葉が、刺さった。
『成功したオタク』
story:あるK-POPスターの熱狂的ファンだったオ・セヨンは、「推し」に認知されテレビ共演もした「成功したオタク」だった。ある日、推しが性加害で逮捕されるまでは。突然「犯罪者のファン」になってしまった彼女はひどく混乱した。受け入れ難いその現実に苦悩し、様々な感情が入り乱れ葛藤した。そして、同じような経験をした友人たちのことを思った。
渋谷シアター・イメージフォーラム、シネマート新宿ほか全国順次公開中
配給・宣伝:ALFAZBET